こんにちは、齊藤です。
前回の記事では「ファーストオーダー」をテーマに、最初の注文場面でお店の看板メニューを
お客様にしっかりと訴求するべき理由と重要性を解説しました。
※前回の記事
【飲食店接客マニュアルの9ステップ】3「ファーストオーダー」で魅力を伝える
※9ステップとは?
【飲食店の接客マニュアル】接客教育に効果的な「9ステップ」とは?
本日は9ステップの第4回目となる「商品提供」がテーマです。
競合他社と比較しても、ワンランク上の接客だと感じていただくためのポイントをお伝えします。
ステップ4「商品提供」
ファーストオーダーでお店の看板商品をはじめ、様々なメニューをご注文いただきました。
しかし「おすすめして売れれば達成!」
そこで終わってしまってはもったいない。
あと一歩、お客様の飲食体験をより印象付けるために、私たちができることがあります。
・商品提供のやり取りを通して、スタッフの接客力や料理人の技術力といった人の魅力も伝える。
商品提供の場面における目標としてはこの2点を挙げます。
一例を挙げると
- 「高品質の食材」
- 「一流の職人」
- 「熟練の調理技法」
こういった素晴らしい要素が揃った商品の魅力を一層高めるのか、
それとも台無しにするかは、提供時の接客対応にかかっていると断言できます。
今の時代は「美味しい商品を提供すれば必ず流行る」訳ではありません。
お店側の自己満足にならず、お客様に一つでも多くの魅力を確実に伝える力や工夫が重要です。
その理由や具体例を解説していきます。
それでは見ていきましょう!
まずは商品を正しく理解
飲食店のスタッフは、お客様をホスピタリティ溢れる精神でおもてなしする
「サービスマン」としてのプロ意識が求められます。
そしてもう一つの要素としては、自分のお店の商品をお客様に販売して利益を上げる
「セールスマン」としての側面も存在します。
セールスマンと聞くとあなたはどんなことを思い浮かべるでしょうか?
- 自動車を販売する
- 保険商品を販売する
- 高級タワーマンションを販売する
様々なセールスの仕事が存在します。
どんな商品を販売するにせよ、セールスマンに必須の要素があります。
それは
自分の販売している商品のことを誰よりも詳しく理解している。
ということです。
このことを私たちの仕事に置き換えれば
私たちは飲食店なので、自分のお店の料理や飲み物について誰よりも詳しく理解している。
ということになります。
これは一見当たり前のように聞こえると思います。
「この保険、詳しい規約はよく分からないですけど、万が一の時に備えて絶対に加入した方が良いです!」
こんなセールストークで保険をおすすめしてくる営業マンは存在しませんよね?
お客様の職業や年齢、家族構成、年収、健康リスクを考慮して、
一人ひとりに合わせた丁寧なプラン提案をすることができます。
その土台となっているのは
自分たちが取り扱っている商品の正しい知識と理解
これに他なりません。
飲食業界で働くスタッフの課題
ではこのケースを飲食業界に置き換えて考えてみましょう。
あなたは友人や家族と食事に行った際に、次のような経験はありませんか?
- メニューについてスタッフに質問したら、答えられずに「少々お待ちください」と確認しにいった。
- 明らかに正しくない説明、誤った説明をされた。
- お店のおすすめを聞いたら、悩んで即答できなかった。
おそらく何らかの経験があると思います。
飲食業界で多くのお店が抱えている課題の一つ、それは
スタッフの商品に対する知識や理解の不足
私はこのように常々考え、自分のチームの「教育」には商品知識を特に重視し、
お客様に正しく誠意ある対応をする土台づくりをしてきました。
先述した保険の営業マンの例を見るとお分かりいただけると思いますが、
商品のことをよく分からないのにお客様に売りつけることはあり得ません。
しかし、残念ながら飲食業界では、自分のお店のメニューのことを「わかっていない」状態で、
スタッフがお客様に接客対応し、オーダーを獲得し、お金を払っていただくということが発生しがちです。
この点に関しては、まず自分自身がプロとしての自覚を持ち、
スタッフにも規範を示すことで全員の商品知識を高め、接客力を高めることが必要です。
教育の考え方
「教育」という言葉の定義は色々考えられますが、
飲食業界で働く皆さんに対して、私から一つ提案させていただくとすれば
・誰が対応しても同じようにできる状態を目指す。
一人ひとりの個性や長所を伸ばす教育はこの2つの基本の先にある「応用編」です。
お客様へのマナーや誠意とも考えられる「自分たちのお店の商品への正しい知識」を
軽視している経営者や店長をこれまで何人も見てきました。
同じ対価を支払います。新人が対応したから2割引、とはなりません。
- まずはスタッフみんなが知っている状態
- 誰が対応しても同じようにできる状態
私はそう信じています。
商品知識で必ずおさえたいポイント
ここまでは正しい商品知識を身につける重要性を述べてきましたが、
飲食店における商品知識の高め方で、役立つアプローチの仕方を細かく紹介します。
ぜひともあなたのお店の教育にも役立てて下さい。
メニュー正式名称
商品の魅力を端的に表現するのは「商品名」です。
その商品名には、次のような情報をお客様に伝える役割があります。
- 原産地・・・「宮城県産」「平田牧場」「気仙沼漁港」など
- 使用食材・・・「金華豚」「いわい鶏」「仙台牛」など
- 調理方法・・・「ローストポーク」「フリット」「昆布締め」など
- 提供スタイル・・・「バルサミコソース」「ハニーマスタードソース」「シチリア岩塩」
メニュー名にはお店側のこだわりとも言える、こうした情報が詰まっています。
この正式名称を覚えることからまずはじめましょう。
「平田牧場 金華豚のローストポーク ハニーマスタードソース仕立て」
この正式名称を覚えていないと、スタッフはおそらく提供時に
「お待たせ致しました。ローストポークです」
こう伝えて提供してしまいます。
これではシェフのこだわりやメニューの魅力が伝わりません。
これでは
・商品提供のやり取りを通して、スタッフの接客力や料理人の技術力といった人の魅力も伝える。
冒頭に述べたこの2つのゴールの観点からすれば「0点」と言わざるを得ません。
私のお店では
- メニュー変更のタイミング
- 新人スタッフが入店するタイミング
この際に正式名称の筆記テストを課して、必ず暗記してもらいます。
商品の魅力をお客様に正しく伝えるためにも、今一度メニュー名の重要性について
考えてみましょう。
使用食材
アレルギー関連の食材使用の有無を明記することは大前提として、
そのメニューに何が使われているか、「主要食材」だけでもピックアップしましょう。
(主要食材以外とは調味料や飾り付けなど)
- 「本日のカルパッチョ」
- 「夏野菜の彩りサラダ」
- 「串焼き盛り合わせ5種」
- 「海鮮ちゃんこ鍋」
こうしたメニュー表記は、お客様から何が入っているか聞かれることが多いので、
あらかじめ正確にお答えできるように教育しましょう。
メニューごとにリスト化して配布したり、デシャップやバックヤードに掲示するのが
一般的ですが、お客様の前で正しく使えてこそ価値のある知識です。
掲示物がただの風景となり、お客様に伝わっていないことのないように注意しましょう。
個数や分量
飲食店のメニュー表記には、
「その料理は何人前の分量なのか?」
「5人だと1人前で足りるか?足りないか?」
こうしたお客様の疑問に役立つ情報が記載されているケースは多くはありません。
ここで求められることが、スタッフがお客様に正しく情報を伝えることです。
商品名や画像だけでは伝わりづらい、メニューの量感をお客様に伝え、判断のお手伝いをすることです。
特に注意しなくてはならないケースが
お客様の人数に対して、メニューを過剰に注文された場合です。
1つの注文で2〜3人でシェアできる分量なのに、人数分注文された場合は、
お客様にしっかりと説明して、まずは1人前で様子を見ていただき、足りなければ追加という提案が親切です。
その説明がないまま、人数分の注文を受けて、大量の料理を提供した場合はお客様がどんな気持ちになるでしょう?
説明や提案をしてくれなかったスタッフの接客対応に対して好意的になるはずがありません。
これはお客様のせいではなく、明らかに店側、スタッフの対応ミスです。
適切な食事量をコントロールしてさし上げることもスタッフの仕事です。
一方で、人数に対して少ない場合は追加で注文すれば良いですが、
- 1人前「4個入り」の唐揚げ
- お客様は「5名様」
こうしたシチュエーションは1人前で良いのか、2人前の方が良いのか判断が分かれます。
ここでの最適解は、唐揚げの1個あたりの価格設定を決めておき、
「1人前4個入りですが、追加で5個入りにできますので5個でご用意しましょうか?」
という提案です。
こうすることで、お客様全員がシェアでき、1人前の売価にプラスして売り上げを獲得できます。
お客様も店側も双方メリットがあるベストな提案です。
こうした親切な提案を可能にするためにも「商品知識」が不可欠です。
付属備品
お客様に商品を提供する際は、その商品を楽しんでいただくために足りないものがあってはいけません。
- サラダ・・・「トング」「取皿」「別添えの場合はドレッシング」
- 汁物、椀物・・・「とんすい」「レンゲ」
- 鍋物・・・「あく取り」「おたま」「がら入れ」「とんすい」「調味料や薬味」
お客様に「新しい取り皿ください」と言わせてはいけません。
サラダやソースの多いドレッシングは、すぐに皿が汚れるので交換しましょう。
手で掴んで召し上がる料理は新しいおしぼりも一緒に提供しましょう。
鍋料理の場合も、テーブル上が汚れやすいので、おしぼりをこまめに交換したり、
綺麗なダスターでテーブルを拭いてあげましょう。
商品を1つ提供するごとに、何らかのアクションが発生します。
それに応じて適切なサービスを「言われる前にしてさし上げる」対応を心がけましょう。
提供時のトーク
商品を提供する際に、正しい正式名称をお客様に伝える重要性を述べました。
もう一つは、商品ごとに必要な説明や注意を促す声かけを行うことです。
- 熱々の焼きたて商品・・・「プレートが熱いのでお気をつけてお召し上がり下さい」
- デザートなどの冷製商品・・・「冷たいうちにお召し上がり下さい」
- 刺身などの生鮮商品・・・「新鮮なうちにお早めにお召し上がり下さい」
- 食べ方の説明・・・「こちらの岩塩でお召し上がり下さい」
- シェアする商品・・・「こちらでお取り分け下さい」
お客様に「どうやって食べるの?」と聞かれてはいけません。
もつ鍋や水炊きといった鍋料理も、提供してお客様に丸投げするのではなく
「最初に鶏肉から入れることで、お出汁に旨味が出ます。野菜は最後で大丈夫です」
「火が通ってきたら火力を中火にしてください。ニラがしんなり柔らかくなってきたら食べ頃です」
こうした声かけをしてあげることで、美味しい楽しみ方や食べるタイミングが判断できます。
あなたのお店の一つ一つのメニューに応じた声かけを考え、
スタッフ同士で「お客様役」と「スタッフ役」に分かれたロールプレイングトレーニングがおすすめです。
魅力が伝わる内容をみんなで考えてみて下さいね!
一歩踏み込んだ攻めの対応
ここまでの内容は「商品提供」の場面での基礎的な部分です。
最低限必要な知識と考えて下さい。
ここからは少しだけ一歩踏み込んだ、お客様の印象に残る商品提供の接客対応を提案します。
商品のストーリーを語る
商品の魅力をお客様に伝える上で、私からぜひ提案したいことがあります。
それは「商品のストーリー」を語るということです。
あなたのお店の全てのメニューには、
- 「生産者」
- 「加工者」
- 「流通者」
- 「お店」
- 「料理人」
こうした多くの人が関わっています。
そしてその人たちの「想い」も数多く存在します。
- 一つ一つの野菜を有機農法で丹精込めて、我が子のように愛情を注いで作られた野菜
- 産地で獲れた鮮度を落とすことなく、お店や家庭に商品を届けるための輸送技術
- 朝獲れの鮮魚をその日のうちに楽しんでいただくために、努力して作り上げた独自の物流ルート
- 生産者や流通者の想いを胸に、自らの技術と情熱で最終工程を仕上げる熟練の料理人
マラソンリレーのように、私たちのお店や食卓には、様々な想いが乗った商品が存在します。
このストーリーをぜひお客様に伝える工夫をしましょう。
メニューの表記や魅力的な画像も良いですが、やはり商品を提供する際にスタッフがお客様に伝えたいですね。
「こちらの刺身は◯◯漁港の朝獲れの新鮮なものを提供しております。プリプリの食感が凄いんです」
「何もつけなくても甘くて美味しいです。まずはそのままでぜひお召し上がり下さい」
「素材の良さを楽しんでいただけるように、シンプルに塩焼きにしております」
こうした提供トークをすることで、商品の魅力だけではなく、関わる人にも想いを馳せて、
美味しい料理の印象をさらに深めることができます。
ひいてはこうした経験こそが
「お客様が外食する理由」
「お客様が外食体験に求める要素」
だと私は考えています。
八百屋のお母さんの対応で学んだこと
お客様に商品の魅力や美味しい食べ方をお伝えする上で、
非常に勉強になっている出来事があります。
皆さんは市場や八百屋さんに買い物に行ったことはありますか?
私が住んでいる宮城県には、仙台駅前に朝市もあり、農村部や沿岸部にも魅力的なお店や道の駅があります。
私は天ぷらが好物でして、よく野菜を買いに行くのですが、季節ごとに珍しい地場野菜が売っているんですね。
見たこともない、聞いたこともない野菜です。
私がそれを手にとって眺めていると、八百屋のお母さんが
「お浸しにすると美味しいよ」
「天ぷらにして塩で食べると美味しいよ」
「今の時季はこっちの野菜の方がいいよ」
色々と教えてくれます。
お母さんによってはいろんな言葉遣いや、伝え方の強度の違いはありますが(笑)
ここで私が感じたことは、このお母さんたちは
良い意味でお客様をお客様と思っていない
ということです。
まるで自分の家族に対してのように、
「こうするのが一番美味しい」
「それよりもこっちが良い」
と伝えてくれます。
これを飲食店に置き換えたと考えましょう。
今日あなたのお店に、あなたの両親や兄弟、恋人が来店したとします。
その場合、きっとあなたはお店で一番のおすすめメニューや、
「これは絶対に食べるべき」というメニューを伝えるはずです。
(逆にあまりおすすめできないものもあるかもしれませんね)
これは相手をお客様と考えずに、自分の大事な身内だからですよね。
これも良い意味でお客様をお客様と思っていないことと同じです。
私はこの八百屋のお母さんの経験で、商品をおすすめしたり提供する際には、
できるだけその商品の魅力を一つでも多く伝える「おせっかい」をお客様のためにしています。
「お客様と思って接客しない」
魅力的な商品提供を行うヒントは、こうした考え方の中にもあると私なりに学びました。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
長くなりましたが、ここまで「商品提供」をテーマにお伝えしてきました。
最後にもう一度「商品提供」シーンにおけるゴールを確認しましょう。
・商品提供のやり取りを通して、スタッフの接客力や料理人の技術力といった人の魅力も伝える。
この2つを達成するためには、以下のポイントをおさえることが重要です。
- 大前提としてメニューの「商品知識」を高めること。
- 飲食業界は「商品の正しい知識と理解」が課題。
- 教育の第一歩は「みんなが知っていて誰もができる状態」を目指す。
- 正しい商品知識を土台に、一歩踏み込んだ攻めの接客が可能になる。
- 「商品のストーリー」を伝える接客と「お客様と思わない」接客がヒント。
これらを活用することで、あなたのお店の魅力的なメニューをさらに魅力的に、
お客様の心にしっかりと印象付けることで、もう一度足を運んでくださるきっかけに繋がります。
飲食店はなんといっても「商品の魅力」が生命線。
- お客様がなぜ外食するのか?
- 飲食店に何を期待して来店されるのか?
この2つの理由を想像すれば、商品の魅力の重要性が理解できるはずです。
あなたのお店に来てくださったお客様が、忘れられない外食体験をするためにも、
商品そのものだけではなく、人が演出する商品知識という最後のエッセンスにも注力してみて下さい。
次回はスタッフの接客力の見せどころとなる「中間サービス」について焦点をあてていきます。
他店舗と違いを生み出すホールラウンド力を中心に解説していきますね。
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。
夏の暑さにもコロナにも負けず、7月の営業を盛り上げていきましょう!